| ー『月刊・社会教育』2004年11月号「地域に生きる博物館の魅力」特集に掲載ー 垣花恵子「子どもたちの怖くて、不思議な恵子美術館」原稿公開 |
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子どもたちの怖くて、不思議な「恵子美術館」 ―日本最南端美術館のことー 垣花恵子 はじめに 沖縄県は先の大戦で本土防衛の捨て石とされ、悲惨な地上戦に巻き込まれ壊滅的被害を受けました。 そして戦後も二七年間、米軍統治下に放置されるなどの歴史的背景もあり、県立美術館の無い唯一の県であるだけでなく、市町村立、私設の美術館も少なく、美術館後進県と言われてきました。 その美術館後進県沖縄の、さらなる離島の宮古島、平良市内に私は生まれ育ちました。その平良市の実家が、道路拡幅で建て替える機会に、実家の一階部分(一六〇u床面積)に一九九八年一月一日、小さな私設の恵子美術館をオープンしました。 恵子美術館には私の作品と共に、全国各地の代表的な美術家の皆さんの協力を得て、多彩な「超現実・幻想美術」や「抽象美術」の平面作品、立体作品を展示してスタートしました。 当時、建設予定だった、念願の沖縄県立美術館が、その後財政難で凍結になり、また全国でも私設美術館他の閉館が相次いでいましたので、小さな私設の恵子美術館オープンのニュースは、明るい話題として、本土や沖縄のマスコミで繰り返し大きく紹介され、あたたかい激励となりました。 子どもたちとの出会い 私たちが美術館を造ろうと発想した理由の一つは、美術館の無い宮古島、平良市に恵子美術館を造って、地元の子どもたちに本物の美術と触れ合う場を作ることでした。 でも、そんな私たちでさえ、親に連れられてくる子どもたちや、先生に引率されてくる課外授業の生徒たちを想定していましたし、実際にオープンから二日間は、正月休みの家族連れで訪れる子どもたちばかりでした。 ところが三日目からは、自分の小遣いから五〇円の入館料を払って、元気に飛び込んでくる子どもたちが小学生を中心に増え続けました。 美術館前の道を通りかかって入ってきた子どももいれば、マスコミ報道や口コミで知ってやってきた子どもたちもいたようです。 また「不思議で親しめる美術館」をイメージしたデザインの恵子美術館の外観も、子どもたちや観光客が興味を持って気軽に入れる雰囲気作りに役だっているようです。 既に子どもたちとの触れ合いについては、私たちの編集発行した『すけっちぶっく』二号、三号、四号に大特集を組んでいますし、私が執筆したエッセイや子どもたちの感想の一部も「恵子美術館ホームページ」で公開しておりますので、ここでは子どもたちの書いた膨大な感想文の中から、幾つかを紹介したいと思います。 絵が動くんじゃないかと 中程小夜子(平良第一小学校六年) この美術館には一回来たいと思っていて、今日、友達と二人で来ました。 中に入ると、しーんとしていて、その中ですごい絵を見ると、こわくなり、その絵が動くんじゃないかと、しんけんに見ていました。 私は、全部の絵のしせんを感じ、絵を描いた人はとてもすごいと思いました。こんなに人をひきつけるような絵を描いたからです。 異空間 川満さつき(佐良浜中学二年) 目に飛び込んできた美術館の文字。 「美術館」ってどんな絵があるのか…。垣花恵子という人はどんな絵をかくのか…。 初めて見る美術館。どうしても足が止まって素通りすることができずにいるまま、かたまってしまう体に、私の脳が「入れ入れ…」足は命令に従ってドアを押す。 中に入ってみると、不思議な感覚に包まれた。 「何、これ」 美術館という場所が他より静かな場所のせいなのか、飾られている絵が普通のよりも怖いせいか…。 何も解らないまま絵を見て歩く、何も解らない頭の中に、目の中に、次々と入ってくる不思議な絵。 「体が浮きそう」な感じ、フラフラしている。(略) また来たいと思った。そして今度来たら、少しくらいは理解できるといいな。 でもやっぱり頭の中はカラッポになって浮きそうになるかも、、、。ここは異空間だから。 足がとまってしまった 下地瑞穂(平良中学校三年) 普段なにげなく通っていたこの道で、私はいつもこの美術館のことが不思議でならなかった。 いつもは遠くから見て「なんか、きもちわるそうな所、ぜったい入りたくない」というふうに思っていた。 けれど、今回ぐうぜんこの通りを自転車で通った時、つい足をとめてしまった。 どうしてなのかわからないけれど、足がとまってしまった。(中略) いろいろ中を回ってみて、私はなぜか心の中に残った絵をみつけた。 「海の風景―サイパン幻想シリーズ」(加藤すみ子作品)を見た時、サイパンは第二次世界大戦中に多くの人が死んだ場所でもあるということを思い出した。 海では多くの人が死に、その体を波がよせては返していたのを、本で読んだことがある。この絵の中にあるいくつかの目、それは私をにらみつけているように見えた。かと思うと、次は泣いているようにも思えた。私が思うに、この目は、海で死んだ人々の思いがこめられているように思えた。 こんなに心に残るような絵に出合ったことが、今までなかっただけに、これはもっと他の人にも見てもらうべきだ、そう思った。 (感想文は全て『すけっちぶっく』二号より転載。「恵子美術館ホームページ」にも全文が公開されています) 感想文を書いた子どもたちは、それまで美術館に入った体験も、現代美術に接する機会も無かったわけですから、教科書でしか知らない「美術館」という言葉に惹かれ、恵子美術館のポップな外観デザインに好奇心を募らせて入館し、初めて見る濃厚で大きな作品群にショックを受けたようです。 一般的にはとっつきにくいと言われる現代美術の多様なジャンルの中でも、恵子美術館で展示している「超現実・幻想美術」作品は、子どもたちの想像力を刺激する作品だったのではないかと思いました。 また沖縄県の中では、もっとも美術展を見る機会の多い那覇市の、小学校修学旅行で訪れる生徒たちの感想にも、「今まで見たことのない絵でおもしろかった」とか、引率の先生からは、「読書感想画の指導の参考になった」等の感想が毎回残されていて印象的です。 紙数の関係で引用できませんが、本土の大都会から家族で観光にきた子どもたちの多くも、「今まで見たことのない絵でおどろいた」という意味の感想を多く残しています。 小さな美術館から見えてくるもの 子どもたちや、全国からの観光客の膨大な量のアンケートを読みながら、私たちは「小さい美術館」の役割を再確認しています。 街の画廊のように、道路から二、三歩で絵が見られる気軽な美術館の良さをアンケートに書き込む観光客が多いからです。 恵子美術館は街中の画廊のように入りやすいけれど、展示している美術作品は街の画廊とはかなり異なっています。 大都市から来た観光客もショックを受けるような、今まで見る機会の無かった「超現実・幻想絵画」の大作を中心に展示している美術館だからです。 普通の風景画や花の絵が一つも展示されていない美術館を意図的に目指してきた結果が、今の所良い結果を出しているようです。 戦前は前衛芸術として異端視され、戦時中は厳しい弾圧を受けた「超現実・幻想美術」が、今やっと、時代の感性に受け入れられるようになった気がします。 それは、恵子美術館のアンケート用紙の回答率が入館者の八割を超えていることからも分かります。 「恵子美術館」万歳 比嘉達人(沖縄県立芸大三年) すごい美術館だと思いました。かげきで、今っぽくてステキです。 とりそろえた作品も、かなり好みのものが多く、嬉しい限りです。 恵子美術館、というネーミングが先ずステキです。そして外観、これはもう、入らざるをえない感じでした。 やられた、僕もこれくらいパワーがあることをしたいです。沖縄本島に、こんな美術館がバンバン建ってほしい。すごいぜ宮古。(後略) パワーが絵からにじみでている 中川昌平(沖縄県立芸大三年) 美術館の壁一面が全て絵でおおわれていて、その絵の大きさに圧倒されてしまいます。 一つ一つの絵がとても大きく、その絵を描くためのパワーが絵からにじみでている感じがします。 絵の大きさもさることながら、色の使い方も大変大胆な使い方をしている。圧倒される感じは、大きさと色との相乗効果によるものだと思われます。(後略) (感想文は全て『すけっちぶっく』三号よりの転載。「恵子美術館ホームページ」にも全文が公開されています) 恵子美術館の展示作品は私の作品と、世界や日本全国で活躍した物故美術家や、現在も全国各地で活躍している美術家の寄贈作品で構成されています。 その寄贈作品の質の高さに驚き、多くの美術関係者や観光客が注目してくれるのは嬉しいことです。 作品は、実作者である私の体験や、何人かの友人美術家を持つ夫の経験から、公募展やコンクールに出品した大作にこそ、その美術家の最も良質なエネルギーが注ぎ込まれていることを知っていました。それで寄贈作品は五〇号から一〇〇号までの大作を中心にお願いしたのでした。 展示壁面一〇〇メートルの美術館であっても、国際展や国内展の受賞作品、入賞作品の大作が競って展示されている密度の濃い美術館となりました。 小さな美術館の常識に囚われず、私たちも大作作品の管理や展示替えの労を厭わず、美術家が精魂込めた大作を中心にこれからも展示していきたいと考えています。 終わりに オープンから七年、私たちの予想を超えて展開していく恵子美術館を総括するの難しいいことでした。もっと紙数があれば、国内外で支援してくれた友人たちのことも書きたかったし、ボランティアで支えてくれる地元の皆さんの支援についても書くべきであったと思います。 また「ハンセン病国倍訴訟」の支援活動や、『すけっちぶっく』四号での七〇ページの大特集についても書きたかったのですが割愛しました。そして今後の課題と展望として、効果の大きい自前のホームページ活用の広報活動等についても触れたかったのですが、今回は見送りました。 |
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| ▼ようこそ恵子美術館へー沖縄観光に来た若者たちの、エッセイ、感想集 [1]〜[4] | |
| ▼沖縄観光客&子ども達の書いた「美術館と展示作品」の感動の感想集・2005年[3] | |